結論から言います。いま入っている法人保険が会社に合っているかどうかは、決算書の5つの数字を並べるだけで、経営者ご自身でもおおよそ判断できます。見るのは、①借入金の残高、②年間の固定費、③営業利益、④役員報酬、⑤現預金の残高——この5つです。
法人保険の見直しというと「どの商品がいいか」の話から始まりがちですが、順番が逆です。必要な保障額は会社の数字から計算して出てくるもので、商品を選ぶのはその後です。この記事では、決算書のどこを見て、その数字をどう使うのかを、専門用語をできるだけ使わずに説明します。読み終えたら、ご自身の決算書を開いて5分で確認できるはずです。
なぜ「決算書を見ていない提案」は危ないのか
法人保険の提案を受けたとき、決算書を見せましたか。実際には、決算書を一度も見せないまま提案された保険が、そのまま何年も続いている会社が少なくありません。
決算書を見ずに保障額を決めると、根拠が「同業他社さんはこのくらいです」「社長のご年齢ならこのくらいは」といった他人の平均値になります。ところが会社に必要な保障額は、借入金がいくら残っているか、社長が倒れたあと何か月ぶん固定費を払い続ける必要があるかで決まるもので、同業他社の平均とはまったく関係がありません。
その結果、実際に起きているのは次の2つです。ひとつは「足りない」——借入金と個人保証に対して保障がまったく届いていないケース。もうひとつは「入りすぎ」——必要額の計算をしないまま契約を重ね、利益やキャッシュフローに対して保険料が重くなっているケースです。どちらも、決算書を開けば数分で気づけます。
確認する5つの数字と、決算書のどこにあるか
用意するのは直近の決算書一式です。見る場所は次のとおりです。
| 見る数字 | 決算書のどこにあるか | 何のために使うか |
|---|---|---|
| ① 借入金の残高 | 貸借対照表の負債の部(短期借入金・長期借入金) | 万一のときに会社が返さなければならない金額。個人保証が付いていれば、ご家族にも関わります |
| ② 年間の固定費 | 損益計算書の販売費及び一般管理費(人件費・家賃・リース料など、売上が止まっても出ていくもの) | 社長が抜けたあと、会社を立て直すまでの期間を支える運転資金の計算に使います |
| ③ 営業利益 | 損益計算書 | いまの保険料が利益に対して重すぎないかを見る物差しです |
| ④ 役員報酬 | 損益計算書の販管費(明細は勘定科目内訳明細書) | ご家族の生活費の元になっている金額。会社の保障と個人の保障を切り分けるときの起点です |
| ⑤ 現預金の残高 | 貸借対照表の資産の部 | すでに自前で備えられている部分。ここが厚ければ、必要な保障額はその分小さくなります |
必要保障額はどう計算するのか
細かい前提は会社ごとに変わりますが、考え方の骨格は足し算と引き算です。
- 足すもの——借入金の残高(①)に、事業を立て直すまでに必要な期間の固定費(②を月割りして必要な月数分)を足します。役員退職金を出す方針であれば、その見込額も足します
- 引くもの——現預金の残高(⑤)と、すでに加入している保険で受け取れる金額を引きます
- 残った差額——これが、保険で備えるべき金額です
ポイントは、②の「何か月ぶん必要か」を経営者ご自身が決めることです。社長が抜けても回る体制があるなら短くて済みますし、社長個人の営業力で成り立っている会社なら長めに見る必要があります。ここは決算書には書かれていない、経営者にしか答えられない部分です。
そして会社の保障とは別に、ご家族の生活を支える個人の保障があります。④の役員報酬をもとに、ご家族が必要とする生活費から公的年金などで受け取れる分を引いて計算します。法人契約と個人契約が1枚の証券の中で混ざっている会社は多く、切り分けて初めて過不足が見えます。
「入りすぎ」「足りない」の典型パターン
入りすぎている会社によくあること
- 加入の目的を一言で説明できない契約がある(「付き合いで」「勧められて」のまま続いている)
- 借入金を完済したのに、その借入に対応して入った保障がそのまま残っている
- 保険料の合計額を経営者ご自身が把握していない(証券が複数の引き出しに分かれている)
足りていない会社によくあること
- 設備投資や借り換えで借入金が増えたのに、保障額を見直していない
- 個人保証が付いた借入があるのに、ご家族側の備えが計算されていない
- 役員退職金を出す方針はあるが、その原資をどう準備するか決まっていない
いずれも「良い商品に入り直す」以前の問題で、数字を並べれば見つかります。
税理士の先生と、私たちの役割の違い
ここまで読んで「これは顧問税理士に聞けばいいのでは」と思われたかもしれません。役割が違います。
| 顧問税理士の先生 | 当事務所(保険・証券の実務) |
|---|---|
| 税務・会計の判断、経理処理の扱い | 必要保障額の計算と保障の設計 |
| 決算書の作成と会社の数字の把握 | いまの契約内容の読み解き(保険証券の分析) |
| —— | 40社以上の保険会社からの比較・手続き・契約後のフォロー |
当事務所は税務判断はいたしません。保険の経理処理や税務上の扱いに関わる判断は、必ず顧問税理士の先生にお返しします。また、節税を目的とした保険のご提案もしません。保険は保障のための道具で、必要な保障額から逆算して選ぶものだからです。
ご自身で確認して、迷ったら数字にしましょう
5つの数字を並べてみて「これで足りているのか判断がつかない」と思われたら、そこから先は計算の作業です。当事務所では、決算書と保険証券をお預かりして必要保障額を計算し、過不足を数字でお示しする分析を無料で行っています。分析の結果「いまの契約のままで大丈夫です」が結論になることも普通にあり、その場合は分析結果をお渡しして終わりです。
サービスの詳細と進め方は「法人・経営者の方へ」をご覧ください。
執筆: 片岡佳樹(片岡FP事務所 代表/2級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員一種)。本ページは決算書の一般的な見方と保障設計の考え方をご案内するもので、特定の保険商品・金融商品の推奨ではありません。個別の契約の税務上の扱いは、顧問税理士等の専門家にご確認ください。