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退職金

退職金は一時金と年金どっちが得?判断3ステップと計算例

「退職金は一時金でもらうのと年金形式でもらうの、どちらが得ですか?」——退職を控えた方から最もよくいただく質問のひとつです。結論から言うと、多くの会社員の場合、まず一時金で受け取ったときの非課税枠(退職所得控除)を使い切れるかを確認するのが出発点です。ただし、勤続年数・受け取り後の収入・お金を使う時期によって答えが変わるため、全員に当てはまる正解はありません。この記事では、判断の手順を3つのステップに整理します。

なぜ「どっちが得」と一概に言えないのか

受け取り方で変わるのは、主に次の3つです。

  • 税金のかかり方——一時金は「退職所得」、年金形式は「雑所得」として、まったく別のルールで計算されます
  • 健康保険料などへの影響——毎年の所得が変わるため、退職後の国民健康保険料や介護保険料の計算に影響する場合があります
  • お金を使う時期——住宅ローンの完済やリフォームなど、まとまって使う予定があるかどうかで、適した受け取り方が変わります

この3つの掛け合わせはご家庭ごとに違います。だから「どちらが得か」への答えも、ご家庭ごとに変わります。

一時金で受け取る場合——大きな非課税枠がある

一時金で受け取る退職金は「退職所得」という区分になり、退職所得控除という非課税枠が使えます。控除額は勤続年数で決まります。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

たとえば勤続38年なら、800万円+70万円×18年=2,060万円が非課税枠です。さらに、控除額を超えた部分もその2分の1だけが課税対象になり、他の所得とは分離して税額が計算されます(出典:国税庁タックスアンサーNo.1420 退職金を受け取ったとき・令和7年4月1日現在法令)。

長く勤めた方ほど枠が大きくなる、税制上かなり優遇された受け取り方です。退職金の額が控除額の範囲に収まるなら、一時金で受け取っても所得税はかかりません。

年金形式で受け取る場合——毎年の所得として課税される

年金形式(分割)で受け取る場合は「公的年金等に係る雑所得」として扱われ、公的年金と合算したうえで公的年金等控除を差し引き、毎年課税されます(出典:国税庁タックスアンサーNo.1600 公的年金等の課税関係・令和7年4月1日現在法令)。

  • 公的年金の受給が始まると合算の所得が増え、税金や国民健康保険料・介護保険料の負担が一時金の場合より大きくなることがあります
  • 一方、受け取りが終わるまでの間は会社の規程に定められた利率で残りの額が増える場合があり、受け取りの総額は一時金より多くなることがあります
  • 毎月・毎年の生活費として計画的に受け取れるという、管理のしやすさもあります

「総額が増えるかどうか」だけでなく、「毎年の所得が増えることが何に影響するか」までをセットで見るのがポイントです。

ひと目でわかる比較表

項目一時金年金形式
所得の区分退職所得(他の所得と分離して計算)公的年金等に係る雑所得
非課税枠・控除退職所得控除(勤続年数で決まる)+控除後の2分の1課税公的年金等控除(公的年金と合算して毎年計算)
課税のタイミング受け取り時の1回受け取る年ごとに毎年
健康保険料などへの影響原則、毎年の保険料計算には影響しない毎年の所得に含まれ、影響する場合がある
向いているケースの例控除枠に収まる/まとまった使い道が決まっている毎月の生活費に充てたい/受取期間中の利率が高い

※一般的な傾向の整理です。会社の制度(確定給付企業年金・企業型DCなど)によって扱いが異なる場合があります。企業型DC・iDeCoがある方は、退職金との受け取る「順番」で税金が変わる理由もあわせてご確認ください。

計算例——勤続年数と退職金額で税金はこう変わる

実際の数字で見てみます(所得税・住民税の概算。復興特別所得税を含みます。2026年(令和8年)時点の税制にもとづく試算です)。

例1: 勤続38年・退職金2,000万円を一時金で受け取る場合
退職所得控除は800万円+70万円×18年=2,060万円。退職金2,000万円は枠に収まるため、税金は0円です。

例2: 勤続30年・退職金2,000万円を一時金で受け取る場合
退職所得控除は800万円+70万円×10年=1,500万円。枠を超える500万円の2分の1、250万円が課税対象になります。所得税・住民税を合わせた負担はおよそ40万円、手取りはおよそ1,960万円です。

同じ2,000万円でも、勤続年数によって税金は0円から数十万円まで変わります。まずご自身の勤続年数で枠を計算することが、すべての出発点です。

判断の3ステップ

ステップ1 退職金の見込額と、退職所得控除の枠を比べる。会社の規程や退職金の案内で見込額を確認し、上の式でご自身の控除枠を計算します。枠に収まるなら、一時金は税金の面でとても有力な選択肢になります。

ステップ2 60代前半の収入計画を描く。再雇用で働くのか、公的年金はいつから受け取るのか。年金形式を選ぶ場合は、他の収入と重なる時期の所得が大きくなりすぎないかを確認します。

ステップ3 使う時期で分ける。受け取ったお金を「手元に置く額」「運用を検討できる額」「使える額」の3つに分けて、いつ・いくら使うのかを整理します。ここまで見えると、一部を一時金・一部を年金という組み合わせも含めて、ご自身の答えが絞れてきます。

よくある誤解

「年金形式なら会社が増やしてくれるから、必ず得」——そうとは限りません。受取期間中の利率で総額が増えても、毎年の税金や保険料の増加分を差し引くと、手取りでは思ったほど差がないこともあります。増える額と増える負担は、セットで比べる必要があります。

「一時金でもらうと税金をたくさん取られる」——多くの場合、心配しすぎです。退職所得控除と2分の1課税のおかげで、退職金への課税はかなり抑えられた設計になっています。まずご自身の控除枠を計算してみると、印象が変わるはずです。

最近あったご相談例

大阪市淀川区の当事務所に、50代の女性からいただいたご相談です。ご主人の退職金について「一時金でまとめて受け取るか、終身の企業年金で毎年受け取るか、どちらがよいのか分からない」とのことでした。

年金形式は受け取り総額が増える見込みでしたが、毎年の所得になるぶん、税金と健康保険料への影響が続きます。一時金なら退職所得控除が使え、税負担を抑えられる可能性が高いことをご説明し、ご家庭の老後資金全体の見通しと合わせて、一時金を軸に検討する方向で整理しました。

当事務所の相談記録225世帯分のタグ集計では、退職金の受け取り方を面談のテーマにされた方はまだ8件。多くの方が「会社の案内が来てから」と受け取り方を後回しにされており、比較の時間が取れないままになりがちです。

※個人が特定されないよう、金額・時期の記載は控えています。

まとめ

  • 受け取り方で変わるのは「税金のかかり方」「健康保険料などへの影響」「使える時期」の3つ
  • 出発点は、退職金の見込額と退職所得控除の枠を比べること
  • 答えはご家庭ごとに変わる。一部一時金・一部年金の組み合わせも含めて、数字で比べてから決める

当事務所では、退職金の見込額とねんきん定期便をもとに、受け取り方ごとの違いをご自身の数字で比べるお手伝いをしています(退職金・老後資金の相談について詳しく)。「案内が来てから考えればいいか」と後回しにせず、退職の1〜2年前を目安にご相談ください。相談料は何度でも無料です。

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この記事に関するよくある質問

Q退職金に税金はかかりますか?
A

かかります。ただし一時金で受け取る場合は退職所得控除という非課税枠があり、控除後の金額のさらに2分の1だけが課税対象になるため、勤続年数によっては税金がかからないケースも多くあります。年金形式で受け取る場合は、公的年金などと合わせて毎年の所得として課税されます。

Q受け取り方はいつまでに決めればいいですか?
A

会社の規程によりますが、退職の前に受け取り方法の希望を確認されるのが一般的です。案内が来てから考え始めると比較の時間が取れないため、退職の1〜2年前から情報を集めておくと落ち着いて選べます。

Q相談には何を持っていけばいいですか?
A

退職金の見込額がわかる資料(会社の案内や規程)と、ねんきん定期便があると具体的に試算できます。どちらも手元になくても相談は始められますので、まずはそのままお越しください。

Q退職金を一時金で受け取るデメリットは?
A

まとまった額を一度に管理することになるため、使いすぎや、退職直後に不慣れな投資へ一括で回してしまうリスクがあります。また、年金形式で受け取る場合に会社の規程の利率で増える分は受け取れません。手元に置く額・運用を検討できる額・使える額に分けて管理することが対策になります。

Q退職一時金と企業年金は両方受け取れますか?
A

会社の制度によります。退職一時金と企業年金の両方がある会社や、一時金と年金の比率を選べる会社もあります。まず退職金規程や人事部の案内で、ご自身の会社で選べる形を確認してください。両方ある場合は、退職所得控除の枠を意識して配分を決めます。

片岡FP事務所 代表 片岡佳樹
片岡 佳樹 片岡FP事務所 代表/ファイナンシャル・プランナー(2級FP技能士・証券外務員一種) 勉強してもなお動けずにいる方を、決めて動けるところまでお連れすることを何より大切にしています。 プロフィールを見る →

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